こんにちは、ふじちゅんです。
「夏と言えばホラー映画」なんて意識することはあまり無いけれど、ちょっと前にアマゾンプライムに追加されてツイッターで再度話題となっていた映画「来る」をお盆頃に観ました。
※ようやく記事を投稿……。
劇場で予告を何度か観ていたのですが、普段邦画もホラーもあまり観ないのでスルーしていました。
ツイッターで流れてきた感想というかオススメですよ的なツイートを見て気になったんですけど、口コミの宣伝効果ってすごいなぁなんて思ったり。
軽く調べると原作(澤村伊智作「ぼぎわんが、来る」)との相違点が多いこと、全体的に賛否両論な評判であることが分かりました。
原作未読なので相違点はいいとして、賛否両論については面白かったって言う人はやたら絶賛してるようなので、面白いと思える人にはとことん面白い作品なのかなという印象も持っていざ鑑賞。
■ざっくりあらすじ
・幼少期に田舎で悪い子をさらうと言い伝えられていた「あれ」にさらわれた女の子と仲の良かった田原秀樹はその女の子に自分もいずれさらわれると言われていた。
・結婚して子どもも生まれ、田原秀樹は周囲に幸せな家庭であることをアピールするが実際は自分の印象を良くするための嘘ばかりだった。
・子どもが生まれる前から始まっていた身の回りで起こる不可解な現象が妻子を襲うことを機に、田原秀樹は友人に解決出来そうな人を紹介してもらう。
・依頼を受けたオカルトライター野崎和浩とキャバ嬢霊媒師比嘉真琴が事件解決に動き出す。
■ネタバレ無し感想
ぶっちゃけ面白かったです。
普段邦画を観ないので、たまには邦画も悪くないなって思えました。
キャラクターが魅力的でそれを演じ切る役者も凄くて……ってそればかり言うと脚本や他の要素は悪いのかってなるんですけど、好き嫌い分かれそうなだけで僕は楽しめました。
田原秀樹と妻の田原香奈が怪奇現象に襲われるまでの序盤は少し退屈と言えば退屈かもしれません。
2人の……特に秀樹の人柄がよく描かれているんですけど、夫婦のどちらに感情移入しても居心地の悪さというか、観ていてストレスを与えられる描写が続いて辛いです。
それくらい上手く描かれているわけで、この後の展開に必要な描写なんですけど、やっぱり盛り上がるのはオカルトライター野崎和浩とキャバ嬢霊媒師比嘉真琴の登場からですね。
やっぱりキャラクターが個性的で魅力的なのが大きいです。
登場人物が増える中盤からどんどん面白くなっていきます。
「金の為なら何だって書きますよ」とか言う無気力系オカルトライター。
ピンク髪、子ども好き、「あたし馬鹿だから」なんて台詞が印象的で手に負えない化け物から一家を守ろうとするキャバ嬢霊媒師。
※ちなみにあらすじに書かれてるだけでキャバ嬢描写はありませんでした。
霊能力的にも人脈的にもメチャ強いその姉。
オカルト番組に出演してる胡散臭いけど……な中年女性霊媒師。
他にもかっこいいモブがたくさん出ます。
化け物の登場シーンは迫力がありますし(終盤のCGはちょっと安っぽい気はしましたが)、登場する霊媒師が次々にやられる展開はハラハラしました。
そして、鑑賞者の想像にお任せするオチは良くも悪くもありがちかなぁ……と思う無難な感じでした。
僕は他の要素が良かったのでオチだけで作品の評価を極端に下げようとは思いませんが、人によってはオチで台無しと言うかもしれません……。
結局怖いのか、と聞かれればそうでもないです。
どちらかというとグロテスクなシーンが目立ちます。
個人的には「勧める相手を選ぶかなぁ……でも人に勧めたいなぁ……」といったところです。
個性的な登場人物に惹かれるならオススメですね。
■ネタバレあり感想
田原秀樹の「子育てしてる自分が好き」な感じが強調されてますけど、その前から「自分を良く見せたい」とか「妻はこう思ってるに違いない」的な自分本意な言動が目立ち、序盤は観ていて痛々しかったです。
外面がいい、よりもタチの悪い人柄ですね。
気の弱い田原香奈は我慢するしかなかったようです。
妻子のいる人は彼を見てどう思うでしょうか。
彼程ではないにせよ、自分に当てはまる部分や心当たりがあったりすると、どういう気持ちで観続けることになるのでしょう。
なんて話は置いといて、序盤から出ていた会社の女性が浮気相手であると明言されていないため、観終わってから気付きました。
意味深な言動……というと大袈裟ですが、ちょいちょい言動で秀樹を戸惑わせていた彼女。
秀樹の購入したマンションの値段を知っていたり、秀樹の友人である津田とデートしたとの発言。
後に秀樹の部下である高梨の「会社の女と浮気してるだろ」という発言と、津田の「あいつ(秀樹)のものを奪うの楽しい」発言で繋がるわけですね。
家族を愛してる良いお父さんを自らアピールしている割には、ちゃっかり浮気しているというクズっぷり。
この件に関して香奈は気付いていたのでしょうか。
気付いていても我慢してそうなのがまた救われません。
彼が携帯電話で比嘉琴子の指示に従って化け物を自宅に迎え入れるシーンですが、とても印象深かったです。
家中の刃物を仕舞い込んで、家中の鏡を割って、廊下に水の張られた器を敷き詰める。
用意が出来たところで家の固定電話に比嘉琴子から電話がかかってきて、刃物と鏡のあるところへ逃げろと言う。
どっちが本物なのか、どうすれば自分は助かるのか。
焦りと困惑が極限を迎える彼の顔がしばらく頭から離れませんでした。
結局固定電話の比嘉琴子が本物で秀樹はまんまと騙されて殺さるのでした。
鑑賞者的に「殺されて良かった、清々する」と思うか、「クズなのは確かだけど家族を守ろうと動いて死んだんだから可哀想」と思うかは自由です。
僕は半々かなぁ、という逃げの感想でお茶を濁しておきます。
で、秀樹が死んで香奈パートに入ります。
仕事と子育てに追われ、ストレスの原因だった秀樹が死んでもなお生活はあまり良くなっていない印象。
秀樹が死んで良かったとか、最初の怪奇現象と思われていたものは自分がやったと野崎に告げる開き直りっぷり。
それでも責任を感じている野崎が置いて行った盛り塩を踏み潰すところなんか、化け物より怖いんじゃないかと思いますね。
野崎と真琴が香奈と知紗の面倒をみてくれてはいるものの、香奈は結局知紗を任せっきりで男(津田)と遊ぶ始末。
彼女も化け物に殺されるんですけど、気になるのはこれ。
彼女に非はないのか?
完全な被害者なのか?
※秀樹の部下である高梨が完全にとばっちりで死んでる以上、香奈はどうなのかっていう……。
秀樹という諸悪の根源がいなければ、子どもを放って遊びに行ったりしないのか。
それとも、あれが本性で秀樹の有無は関係無かったのか。
そもそも何故化け物に襲われてしまったのかが重要なわけですが……。
津田の魔導符が家にあったというのが大きいですが、そもそも化け物は家庭の溝や隙間につけ入るらしい(原作談)ので、やっぱり夫関係無しに子どもの存在を疎ましく思っていたんじゃないかなぁと思います。
香奈が死んで野崎パートに入りました。ようやく主人公が主人公してきます。
秀樹パートでは無気力。
香奈パートではお人好し。
野崎パートでは過去の出来事による苦悩葛藤を乗り越えながらの化け物との対峙。
成長というか、全編通して変化していってますね。
このパートで「そういえば野崎が主人公じゃん」って思い出すくらいこれまでは脇役でした。
さて、いよいよ真琴もやられて知紗も行方不明になり、途方に暮れているところに現れたのが真琴の姉の琴子です。
クール過ぎてやばい。警察を使えてやばい。
仲間を全国から召集してやばい。
と、語彙力を喪失してしまうくらいに彼女の圧倒的なチカラを見せ付けられます。
(警察が出てきたときなんか「説明出来ずに面倒なことになるのかなぁ」なんて思ってたからあの扱いはスカッとしますね)
全国からやって来る霊媒師なんですが、移動中から印象的です。
旅行にでも来たんじゃないかってノリのオバサングループ、タクシーで移動中に殺される。
それを察した新幹線で移動中のオジサン(神官?)グループ、「誰か1人くらい辿り着くでしょ」的なことを言って別行動を始める。潔さって言うんですかね、かっこいいです。
しかもその後カプセルホテルに泊まったらしく、着替えシーンが現実と非現実の入り混じった雰囲気を醸し出しててとても印象的な演出でした。
集まった関係者が田原一家の住んでいたマンションの横の公園(マンションの敷地内?)で準備を始めます。
キャッキャウフフとはしゃぐ女子高生もいました。
※実は関係者(巫女?)
片腕を無くした逢坂さんもやって来ました。
生きてたのか!!
死んだ秀樹がまだブログを更新しているということで、成仏させに部屋で彼と対話しています。
そこで秀樹の霊は自分が死んでいることを知らされて泣きながら、そして知紗の名前を呼びながら成仏します。
これがまた、本心で子供と会えないことへの悲しみからなのか、逢坂や野崎が見ているから最後まで「子ども愛してますアピール」なのかが分からない……って言うと穿った見方でしょうか。
化け物を迎え入れる準備が始まり、儀式が始まります。
このラストスパートがこの作品1番の見どころだと声を大にして言いたい!
そんなタイミングでトイレに行く野崎!
(異界?に行くための展開だとしても無理矢理感は否めません)
化け物がやって来る途中、病院の看護婦さんやマンション前にいた神官がおもむろに殺されます。
「人の子どもが虫を潰しても何とも思わないのと同じ」的な台詞がありましたが、ここでその化け物の死生観が表現されていますね。
※迎える儀式なので神官を殺さないと入れないわけがないので。
で、化け物が田原家にやってきました。
知紗が憑依されていて、知紗ごと消そうと(異界に帰ってもらおうと)する琴子とそれを止める野崎(と真琴)で揉めます。
用意しておいた鏡(対化け物に重要)を野崎が割って「どうして」と問う琴子に、
「ワガリマゼン!」
と感情的な野崎が主人公してます。
ここもなんですけど、琴子に殴られる野崎もちょっとシュールで緊張感がちょいちょい削がれます。
※ノリと勢いがあってこれはこれで良い。
大勢に迷惑がかかるけど、必要な(そして被害を被る大勢と比べたら小さな)犠牲を出せないって、王道というかありがちな展開だなぁと。
※最近かつ有名どころだと映画「天気の子」がその展開でした。
結局、琴子は知紗を野崎に託して化け物と戦う展開に。
しかも決着を見せないという想像にお任せエンド。
化け物の叫びとともに血が噴き出してるので琴子が勝ってるんでしょうけど、ちょっとスッキリしないですね。
儀式をやっていた関係者も死んでたり蹲ってたりで被害は甚大なので、素直にハッピーエンドとは言えない部分もあったり。
肝心の知紗は「オムライスの国の夢を見ている」というオチ。
……え?
どゆこと?
寝ている知紗を見て野崎と真琴が笑っているんですけど、ハッピーエンドってことでいいんですよね?
って感じでおしまい。
確かにオチ含めて終盤の展開は「ありがち」だったり「想像にお任せ」だったり「意味不明」だったりですけど、それを許せちゃうくらいに全体を通して面白かったです。
ちなみに、作中であの化け物が「ぼぎわん」であると明言されていないので僕はこの記事で化け物と呼称していました。
秀樹の親戚が「ぼぎわん」の名前を上げていましたし、流れ的に「ぼぎわん」で間違いはないかと。
同一の怪異でも地域や時代で名称が変わることもあるし、野崎や比嘉姉妹が「ぼぎわん」と呼ばなかったのは自然と言えば自然ですが、説明も無しに(説明不要と言わんばかりに)そう呼んでもそこまで差し支えは無かったんじゃないかなぁ、と思ったり。
■原作を読んで(原作ネタバレあり)
映画鑑賞後に原作を読みました。
映画が面白かったから原作に触れてみるってのは普段からよくやってます。
映画でキャラクターは特に気に入ってましたし、原作が面白かったらシリーズ集めようかなーなんて考えながら「ぼぎわんが、来る」を購入。
よく言われていたことなんですけど、原作と映画は結構違ってましたね。
野崎のキャラが全然違ったり(原作ではオカルトに熱心で真面目な雰囲気)、香奈が生きてたり(襲われて発狂してますが)、最後は琴子の仲間は集まらずにバトル展開だったり。
それはいいんですけど、やっぱりビジュアル的な演出が無いせいで淡々としているように感じるんですよね。
心理描写が印象に残るわけでもなく、映画には無い野崎が「ぼぎわん」について調べるパートが冗長に感じたりと小説ならではの面白さに欠けている気がしました。
映画と違う点で良いなと思った部分が無いわけではありません。
「ぼぎわん」の姿がしっかりと描写されてます。
映像化されたら目を背けたくなりそうな不気味さだと思います。
真琴がよりゆるい感じになってます。
知紗と絡む場面で特に可愛く描写されてました。
オチがしっかりしてます。
「ぼぎわん」との戦いに勝った……と思ったら、知紗にまだ憑いている(そのことに他の人は気付いていない)
読んで良かったとは思いました。
なんなら読んだ上でもう一度映画を観たいと思いました。
続編の「ずうのめ人形」も近いうちに読みたいです。
おしまい。
・キャスト
野崎和浩 - 岡田准一
田原秀樹 - 妻夫木聡
田原香奈 - 黒木華
田原知紗 - 志田愛珠
比嘉真琴 - 小松菜奈
比嘉琴子 - 松たか子
津田大吾 - 青木崇高
逢坂セツ子 - 柴田理恵
高梨重明 - 太賀